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October 06, 2004

マッチ売りの白い子猫(再掲)

はじめに
長い人生の中で強烈に印象が残っていることがいくつかある。この物語は童話のようなタイトルであるがノンフィクションである。クリスマスイブの夜から朝にかけて起こった、ちょっと寂しく悲しい物語である。

第一話 出会い
 私が27才のころのことである。まだ、独身で青春を謳歌していた。のらにわとりのように一世を風靡していた時代であった。仕事も遊びもよく頑張っていた。この頃は東京大田区の小さなアパートに住んでいた。
 この日はクリスマスイブで町は街頭にまで店を出してクリスマスケーキを売っている。JR蒲田駅前のデパートからは、クリスマスソングがかかっていて行き交う人も楽しそうである。天気はくもり空、今にも雪が降りそうな寒い日であった。この日は行きつけの赤ちょうちんで軽く一杯やって帰った。アパートへはJR蒲田駅から東急線の方の階段を降りて帰る。下にはスーパーがあって、そこにちょっとした植え込みがある。その中から猫の小さな泣き声が聞こえた。多くの人が行き交っているのに、誰も気が付かないのか、気付かないのかふりをしているのか。植え込みには生まれてまもない子猫がいた。手のひらに乗るくらいの大きさである。外は寒い。こんな寒いところで、誰が捨てたかはわからないが。「なぜ捨てるのだ!!」

第二話 帰路
 かわいそうにとコートの懐に子猫を抱いてアパートに向かった。普通、生まれたときは割りと太っているものなのだがやせていた。骨と皮の状態であった。帰っても何も食べる物が無いので、ミルクでもやろうと思い、帰り道でコンビ二に寄った。子猫を中に入れるわけにもいかないので外の歩道においた。「ちょっと待っていろ」と言って。中に入ってミルクを探していたところ、入り口あたりでさわぎが起こっている。コンビ二の中で「ニャアーニャアー」と泣き声が聞こえる。私を親だと勘違いして後を付いてきたようである。店の中には何人ものお客さんがいた。「どうしたの。かわいそうに!!」という何人かの声が聞こえた。「かわいそうだったら捨てるなよ!!」と心の中でつぶやきながら「あ~連れて帰りますから」と明るく言った。口先だけで誰も連れて帰ってやろう、という人はいなかった。回りの人が偽善者に見えた。ストロボのフラッシュが点滅するたびに、偽善者の人間の顔と本音の鬼の顔が交互に入れ変わるのだ。

第三話 アパート
 アパートに連れて帰って暖房を入れた。何しろ4畳半で、高性能ガス暖房機なので部屋の中は1分もしないうちに暖かくなった。お腹が空いているだろうと思い、皿にミルクを入れてやった。ゆっくりと飲み始めた。「これで元気になるかなあ」と思って見ていたが、そのうち皿に口を付けたまま、意識がなくなってしまった。頭を触ってやると意識が戻り、また、ゆっくりとミルクを飲み始める。何回かやっているうちに起きなくなってしまった。疲れきって眠ってしまったのかもしれない。
次の朝、起きると子猫は冷たくなっていた。「おまえ、何で死んだふりしてんだよう!!」と声をかけたが生き返ることはなかった。昨日まで最後の力を振り絞って頑張っていたのかも知れない。ようやく安心したのだろう。心なしか安らかな顔をして眠っているようだ。部屋の中は暖かく快適である。
 子猫は冬の寒い街頭でマッチ売りの少女がマッチを売っていたように「マッチを買ってください」と訴えていたように思えた。

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